11月を迎え、岩木山の山肌が白く染まるようになると、9月から始まったりんごの収穫にも終わりが近付きます。 今年も「つがる」に始まり、「ジョナゴールド」、「むつ」など、りんごの品種をリレーするかのように収穫してきましたが、残すはわずか2、3の品種となりました。 弘前で栽培されているりんごでトリを務めるのが「ふじ」や「金星」と呼ばれるりんごたちです。 ゴールド農園でもこの2種を最後に収穫し、シーズンが終了します。 「金星」も甘くて美味しいりんごですが、「ふじ」は味覚のバランスに優れ、生りんごとしてはもちろん、ジュースの原料にも最高です。 近年ではジョナゴールドが高い人気を誇っていますが、かつては「ふじ」の人気は揺るぎないものがありました。 もちろん、現在でも「ふじ」は人気種のひとつです。 ちょっと小ぶりながら、蜜がたっぷり入ってジューシーな味わいはりんご本来を感じさせてくれます。 たくさんの品種を口にする私たちりんご農家の間でも「ふじ」は常に高い人気を集めています。 また「ふじ」はゴールド農園独自の栽培方法ではある「葉とらず栽培」が最も適した品種のひとつです。 葉を摘まずに、葉の栄養を完熟の瞬間まで送り続けることができる「葉とらず栽培」で育てられた「ふじ」は糖度・酸度ともに最高のレベルに達します。 りんご農家同士で、良いりんごとは?といった議論になったとき、「もいでるその瞬間に噛じりつきたくなるようなりんご」と冗談っぽく言うことがあります。 その点、葉とらず栽培した「ふじ」には葉っぱの影が残り、均一に着色した有袋りんごに比べ見た目の印象が悪くなりがちです。 しかし、一度でも口にすれば美味しさの違いは一目(口!?)瞭然です。 次の日からはきっと、葉っぱに残る影が美味しさの模様に見えてくること間違いなしでしょう。 私たちにゴールド農園にとって、葉っぱの影は美味しさの象徴です。 もいだその瞬間に噛じりつきたくなるようなりんごとは、葉っぱが作った美味しさをはちきれんばかりに蓄えた「葉とらずりんご」なのです。 また、葉とらず栽培のメリットとして、個体差が少ないことが挙げられます。 葉を摘み取り太陽光を収穫直前までカットする有袋栽培で育てられたりんごでも葉とらずりんごに負けないりんごを収穫することができます。 しかし、それはほんの一部です。有袋栽培の場合、どうしても、どこか甘さや酸っぱさが足りないりんごになってしまいがちです。 その点、葉とらず栽培の場合は、葉が作り出す養分が潤沢にあるため、均一な美味しさとなるのです。 りんご園では今朝も早くから「葉とらずふじ」収穫の作業が行われています。 11月に入ると、雪や霜が降る朝も多く、作業的には大変です。 今朝も昨夜から降っていた雨が地面は葉っぱで凍り付き、冴え冴えとした風景が広がっていました。 しかしこの寒さがりんごには不可欠です。 弘前特有の高い寒暖の差が、りんごの甘さを引き立てて、完熟させてくれる役目を果たしてくれているのです。 秋が深まり、寒さが身に染みるつんれ、りんごが甘く完熟していく様子は、わたしたちに作物と自然の関係の妙を教えてくれます。 味は品質の良いりんごが生産できました。 また、「つる割れ」の問題も、今年は少なく済みました。 つる割れとはりんごのつるの根元の部分の表皮が裂けてしまうことで、こうなると加工用として利用するほかありません。 「つる割れ」が発生する原因はまだ完全には解明されていませんが、りんごが成長する際に果実と表皮との成育のバランスが崩れてしまったことが、表皮が裂ける直接に原因だと考えられています。 そして、成育のバランスを崩す原因はやはり気象条件にあるはずです。 しかし、そこからがわかりません。 「つる割れ」が一体、どういう気候により発生するのか? りんごを育て続けて数十年になりますが、まだまだ勉強しなくてはいけないことがたくさんあります。 また、つる割れと同じく加工用にまわされるものとして「さび」と呼ばれる現象があります。 文字通り、りんごの表面が錆びたようにまだらに変色します。 「さび」は花の時期に霜が降ると発生しやすくなります。 5月の気象条件が、秋に成長した実に影響することを考えると自然の奥深さ、不思議さを感じずにはいられません。 収穫作業について話を戻すと、この時期、朝の7時半から夕方の4時半まで、お昼休みと少しの休憩をのぞき、ずっとりんごをもぎ続けます。 一人でもぐりんごの量は一日で600kgにも達します。 ゴールド農園の広大なりんご園に実ったりんごをすべて人の手でもいでいくわけですから、まさに気の遠くなるような作業です。 しかも、収穫が終わったからといって、春まで休むということでもありません。 来年の収穫に向けて、今年よりももっと美味しいりんごを育てるために、冬の間にやらなくてはいけないことがたくさん待っています。 りんごの樹は収穫が終えると春まで冬眠し、厳しい弘前の冬を乗り越えるわけですが、私たちりんご農家は、りんごの樹をいたわりながら冬を越えるのです。 |